映画「4デイズ」を観ました

DVDで「4デイズ アンシンカブル」を観ました。
公開がずれた上に、同時期で「～デイズ」という邦題の映画が複数あったために埋もれてしまいましたが、テロ行為を怯える世界に突っ込んだ意見を表明した意欲的な作品であると思います。

アメリカ国内3都市に時限核爆弾を仕掛け、4日後に爆発させるというテロ予告ビデオが届けられる。
ビデオの内容と犯人の経歴から、その予告は真実であり、もし爆発すれば、それぞれ一千万人規模の被害者が出ることになる。FBIロサンゼルス地方局でテロ対策チームを率いる女性捜査官は、捜査の過程で犯人の尋問にあたることになる。彼女と共に尋問を担当するCIAに雇われた特別尋問のエキスパート“H”の非人道的な行為に反発しながらも、自らの苦痛と死を覚悟していたテロ犯人が口を割ることはなく、その決意を実感させられるだけの彼女に、残されたタイムリミットが迫る。果たして彼女達はテロを防ぐことができるのか。

“H”が匿名なのは彼個人への報復を予防するためのものですが、そうせざるを得ないほど、彼の尋問は苛烈を極めます。作中でアメリカ軍のイラク・アブグレイブ刑務所での収容者虐待を揶揄する場面がありましたが、それが無思慮な暴力であるなら、“H”は犯人が死ぬ一歩手前まで、計算された苦痛を与え続けます。女性捜査官は、これを非難しながらも、“H”の計算により、あたかも「良い警官と悪い警官」の「良い警官」の役割に沿って尋問に取り込まれます。
ところが、犯人のミスリードにより状況が変わります。
女性捜査官は“H”の尋問の実を上げるため、その手法を肯定し、必要ならそれ以上の手段をも求めるようになります。この歯止めが効かない状態が、現実世界の縮図ではないか、と思います。
ここで“H”の妻として登場する女性によって提示されるのがユーゴスラビアの内戦です。
ティトーの元で複数の民族が隣り合って存在していたユーゴは、ティトー死去後の権力闘争に民族が持ち出され、50年以上前の民族対立を煽られた隣人同士が、疑心暗鬼の末に殺し合いをした、この内戦の状況が代入されることにより、歯止めが効かなくなった先に待つ世界を暗喩します。

では、「だれかがあなたの右の頬を打つなら、左の頬をも向けなさい」ということなのでしょうか。
作中“H”は「俺を肯定しろ！」と言い放ちますが、彼の行為が彼独自のものではなく、その時そこに居た人間の総意であることを認識させる言葉です。聞いていなかった、知らなかったと逃げさせず、聞きたくなかった、知りたくなかったから聞いていなかった、知らなかったのだろうとその場にいた人間に迫り、犯人の体を傷つけたのはそこにいた人間の全ての手であると宣言しているわけです。右の頬を殴られたら殴り返すその手は自分自身のものであり、さらに相手が殴り返してきたときのその頬は自分のものであることを覚悟しろ、ということです。
よって“H”が持ち出す最終手段をその場にいた人間達は阻止します。
その最終手段によって尋問を完遂させることがないためにラストシーンを予見する“H”は、それでも女性捜査官にこう言います、「俺達はいい仕事をしたと思うよ」。
最終手段によって一線を越えてしまえば、それによってもたらされる憎悪から生まれるものに怯え、さらに多くの人々が犠牲になることを想像しないで一線を越えるなと、想像できないならばせめて長きに亘って培われた結果の凝縮である自分の良心や良識に従えと言っているわけです。しかも結果がどうゆうものになろうとも、それを他の誰でもなく自分で引き受けろと言っているわけです。

これはしんどいですね。
現実世界すべての物事に関心を払って、それがどうなればよいか、それに対して自分はどう行動するかを、その結果自分にもたらされる影響を引き受けた上で、すべて自分で決定しなければならないことになりますから、こんなこと世界中で誰もやってないですし、できないです。
ただ、やらないなら、やらなかった時の結果を引き受けなさいよ、ということでもあります。

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