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2009/01/05

トム ロブ スミスの「チャイルド44」を読みました

Tom Rob Smith著「チャイルド44」を年末年始休暇中読みました。
年末の「このミス ’08」をみて、海外作品の第一位だったもので、読んでみました。
非常に良くできた作品で驚きました。

ミステリーであり、冒険小説なのですが、両ジャンルとも、現代は、その動機の設定、謎の設定とその解法の設定が非常に難しい状況にあります。
ミステリーの謎解きの本懐は、その謎の設定にあります。また、主人公の知っている情報は、読者に開示されなければならない前提に立てば、現代はなんでもあり、かつ、なんでもできる、ということです。その設定に一定の制限を設けるために、最近の佳作は、過去に時間を於いた作品が多いように思います。本作も同様、過去に時間を於いていますが、その時代と場所の設定が秀逸、スターリン期末のソビエトにおいたことが、成功の第一でしょう。

過去の共産主義をたてるソビエトにおいて、犯罪は体制が浸透する過程の残滓であり、体制が貫徹すれば、すべて平等の社会が実現し、存在しえないものとなる、人についても同様、ソビエト的な人間であればあるほど犯罪を犯すことはなく、その体制から外れた人間が犯罪を犯す可能性がある、つまり、ソビエト的な人間以外は、その体制の埒外であり、内包しているそのような人間を排除しようとする、この「ソビエト的」な定義が人々に恐怖と不信を植え付け、体制に迎合していることを示さなければ、排除される懸念を常にもつ生活を強います。このことが、解かれない「謎」を作り出します。また、同様の理由で、その「謎」の解明に困難をもたらす効果も発揮します。

謎解きの過程もすばらしく、読み進める毎に明かされる秘密と、危機の回避に対する冒険の数々に、項を繰る手が止まらなくなってきます。
この大スペクタクルを前に、描写は主要人物に集中しますが、例外として、登場する子供達の描写が力強い生命力を感じます。大人達、特に地方の農夫たちにもドラマを感じさせますが、さらりと流すのは、饒舌になることを避けたのでしょうか。
ラストは体制の交代によることを上手く利用し、ご都合主義のハッピーエンディングに説得力を持たせます。

印象に残ったのは、社会主義の国ということで一括りに考えがちですが、地方の農夫は体制に迎合せず、折り合いをつけ、自分達のコミュニティを保持する、その力強さでしょう。依って立つ足下の基盤が強固であれば、その体制は、帝政であろうとコミュニズムであろうと変わりなく、その圧政と搾取に対し、折り合いをつけようとする力と、人として赦せない犯罪を体制に期待することなく解決しようとする力がサブプロットになっているように思います。

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